社長の田嶋崇之です ナイトミュージアム、真夜中の音楽会の話
まだまだ寒い日が続きますが曽我では梅祭りが開催され、じきに桜の季節が来るかと思うと、春が待ち遠しい気分になってきます。年代的に渋谷系音楽に親しんだ私としてはピチカートファイブとか聴くとウキウキした気分で、この寒さも何とか乗り越えられる気がします。2月は面白い催し物がやっていて、実際に行ってみたのでそのことを書きます。
2月5日から28日まで東京の銀座メゾンエルメスで『「ピアニスト」向井山朋子展』が開催されています。今回のハロー通信がお手元に届く頃には終わっていると思いますが、とても興味深い企画です。向井山朋子氏は「ピアニストとして国際的に活躍する傍ら、近年では自ら振付や演出を行う舞台作品やアートインスタレーションの発表など、幅広い分野で才能を発揮している」そうですが私は今回初めてこのような方がいる事を知りました。
で、銀座にあるエルメスの展示スペースに14台の大小様々なピアノが「転がっている」空間が構成され、そこで毎日向井山氏がピアノ演奏します。その開始時間が毎日1時間ずつずれて、初日の2月5日は正午に始まるのが、私が行った2月19日は真夜中の3時に演奏開始となっていました。銀座のエルメスは世界的なファッションブランド「エルメス」のブティックなどが入った日本法人の本社ビルだそうで、ファッション音痴な私には全然縁がないのですが、世界的な建築家のレンゾ・ピアノ氏が手がけたビルで、ガラスブロックを積み上げた透ける壁面がとても印象的なビルです。
私はたまたま車のラジオでこの企画展を知り、ちょうどその日が休前日だったので、なんとなく引き寄せられるように行ってしまいました。上りの最終電車に乗って有楽町に着いたのが1時頃だったのですが、開場が2時との事で、そのまま深夜の銀座を散歩してきました。エルメスがあるのが5丁目で新橋方面へ歩くと6丁目くらいまでは高級ブランドのブティックが並び深夜のショウウインドウが不思議な魅力を放っていました。7丁目・8丁目のあたりは高級クラブが立ち並ぶ夜の街で、1時過ぎだとちょうどお客様のお見送りの時間帯でした。高そうな着物を着たクラブのママみたいのが酔っ払ったお客さんをお見送りしていましたが、迎えの車も普段見ないような超高級車ばかりで、田舎のスナックしか知らない私には「1本何十万もするシャンパンがポンポン空いちゃったのかなぁ」くらいの想像しか出来ません。そのまま端まで行ったら今度は中央通りを1丁目方向へ歩いていきました。学生の頃、2丁目のティファニーがある場所にサンリオの旗艦店があって、そこでバイトしていました。休日の歩行者天国のときにキティの「中の人」をやったりガラポンゲームのお兄さんみたいなことやったりしていました。4丁目の三越には入口にライオンの銅像があって、スタッフで飲んだ帰りにみんなでライオンにまたがって「ガオー」とか、銀座には楽しい思い出があります。
ぶらぶらと深夜の銀ブラを楽しんで会場に着くと、真夜中にもかかわらず100人くらいの人が集まっていました。薄暗い中、2階分くらいの高さがある空間に天井からグランドピアノが吊られたり床に転がったりして、歪んだ空間が構成されていました。
そこにピアニストが現われ演奏が始まります。観客もそれぞれ床に座り込んだり寝転がったりして空間構成の一部となります。ささやくような小さな音から大きな音まで波のように音が続き、夢か現実かまぼろしか、意識がもうろうとする様な不思議な感覚に包まれました。演奏は1時間ほどで最後はスタンディングオベーションで終わり、とても不思議で素敵な時間を過ごせました。私はその後、会場を出ましたが、あの会場にいた人たちも、あの時あの場所だけの、まさに一期一会の交わりで、そこに参加出来た事がとても良かったと思います。
人間の体内時計は25時間で出来ていると言われますが、毎日1時間ずつずらして演奏したのは、そんな時間と空間の歪みを表現したのかなぁとか、薄暗い朝を走る電車でウトウトしながら考えました。